本年一月で、私は七十九歳となります。最近、同年代の方々とお会いすると、まずは健康や病院の話、そして最後は、お墓の話になることが多くなってきました。確かに、八十歳が近づくと、すでに仕事から退いている方が大半だからかなと思います。
そうした中で私が感じたことは、人生の財産とは、目に見える金銭や資産だけではなく、これまでに積み重ねてきた経験そのものも大切な財産である、ということです。見える財産は次の世代に相続することができますが、本当に継いでほしい「体験から得られた学び」は、簡単には受け渡すことができないのが実状です。
昔から「栄枯盛衰」と言われるように、先代が苦労して築いた財産も、次の世代はその苦労を体験していないため、金銭感覚が薄れ、散財し衰退していく——そんな姿を、数多く見てきました。
では、八十代を目の前にした今、見えない財産の尊さをどう次世代へ伝えていくのか。その答えは、故・鍵山秀三郎さんの「掃除道」にあると感じております。
この三十年間、私は毎朝、掃除を続けてきました。与えられた場に身を置き、どれだけ汚れていても、自ら手を入れ掃除をすることで、本来の美しさと機能がよみがえります。同時に、そこを訪れる人たちの喜ぶ姿が目に浮かび、心洗われる思いで一日を始めることができました。
日々の掃除から学んだこと——
それは、どれほど困難な場であっても、まずは受け入れ、今ある条件を一つひとつ活かし切っていけば、その場は変わり、人の心も変わっていくということです。
そして何よりも、新しいものを求めるのではなく、「今あるものの価値を引き出し、活かし切る」ことの中にこそ、生きる喜びがあると感じております。
私は、掃除から得たこの「生きる知恵」を、もう一度、次の世代の人たちへ伝えていきたい——そのように願っております。



