私が会社経営において最も気を配ってきたことは、職場の人間関係です。
創業当時は、社員募集をしても応募者がほとんどなく、当時の職業安定所(現在のハローワーク)に何度も足を運び、「どなたでも結構ですから紹介してください」とお願いして回ったものでした。それでも紹介してもらえない時には、出入り口で求職者の方に直接声をかけたことさえありました。
当時入社してくれた人は、職を転々としてきた中途採用の方々でした。礼儀や作法が身についていない人が多く、中には精神的な悩みを抱えている人もいました。そのため、仕事上の注意をすると、机を蹴る、機械をハンマーで叩く、仲間に当たり散らす、職場を放棄する、さらには倉庫に人糞をまかれる、仕事の治具を壊されるなど、今では考えられないような出来事が起こりました。
それでも、仕事は続けなければなりません。私は毎朝六時三十分に出社し、仕事の段取りを済ませた後、現場に入り、そうした社員たちと一緒になって働きました。
そんな時に出会ったのが、名古屋の青年経営者研修塾(青経塾)でした。私はそこで、遠山昌夫塾主のもと、経営の基本を学びました。
青経塾で教えられたことは、「どんな会社にしたいのか」という理想の姿を明確に描き、その実現に向かって燃えるような情熱で取り組むことでした。そして、その根底には「人間主義」という考え方がありました。社員一人ひとりを人として尊重し、その人の良さを引き出すために、社員教育に力を注ぐことの大切さを学んだのです。
しかし、当時の私どもの会社は、一般的な社員教育ができる段階ではありませんでした。まずは子どもたちでもできることから始めようと考え、現在も実行方針として続けている、「掃除をします」「挨拶をします」「履物をそろえます」の三つに取り組むことにしました。
社員の人たちには、「家に帰った時、子どもたちから『お父さん、お帰りなさい』と元気に迎えられたらどうか、部屋がきれいに片付いていたらどうか、履物がきちんとそろえてあったら、どんな気持ちになるでしょうか。」そして、「まずは自分自身がそういうことのできる人になるために、会社を練習の場だと思って実践してみてください。」と、お願いし続けました。
そして、この三つの実行方針を繰り返し続けるうちに、社員の意識は少しずつ変わっていきました。
掃除は、場や環境を美しくし、働きやすさと同時に、本来の良さを引き出す行為です。挨拶は、人と人との心をつなぎ、人間関係を良くする行為です。履物をそろえることは、次に使う人への思いやりを形にする行為です。
つまり、「掃除・挨拶・履物をそろえる」という実践は、知らず知らずのうちに人の心を整え、人と人とのつながりを深め、良好な人間関係を築いていくのです。
私は長年の経営を通じて、会社にとって最も大切なものは社内のコミュニケーションであると実感しています。そして、その土台となるのが人間関係です。どれほど優れた技術や設備があっても、人と人との信頼関係がなければ力を発揮することはできません。反対に、互いを思いやり、支え合う風土があれば、会社は必ず成長していきます。
これからも、「掃除をします。挨拶をします。履物をそろえます。」という基本を大切にしながら、心の通い合う職場づくりに努めていってほしいと思っています。



